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[曲紹介] 弦楽セレナーデ/ドヴォルザーク [音楽関係]

とある演奏会用にドヴォルザークの弦楽セレナーデの曲紹介を書きました。
なかなかボリュームのある出来になったのでブログでもお披露目。




[まえがき]


ドヴォルザークは大変な鉄道マニア(当時は蒸気機関車)であったそうです。 弟子に汽車の型番をチェックしてこさせたが、間違っていたのでメッチャ怒って「(当時弟子と恋仲だった)娘との結婚はさせん!」と言ったとか(のちにちゃんと結婚できましたよ)、「機関車が手に入るのなら自分の作曲した作品全部と交換してもOK」と語った、などの逸話がいくつも出てきます。
ドヴォルザークのマニアぶりは彼の作品にも色濃く影響を与えていて、弦楽セレナーデはその中でも最も鉄道愛にあふれた作品の一つと言っていいでしょう。 そんな蒸気機関車への想いを短編にて紹介します。


第一楽章: 「港町経由」


ある早朝、新緑の中、蒸気機関車は山あいの町を出発した。 空気は清々しい。 この地方の初夏にしてはよく晴れていて、窓側に座った私には太陽が少し眩しいが ポカポカと温かくて思わずウトウトとしてしまう。汽車ならではの長閑(のどか)さだ。
今日は何か目新しい物を探そうと思ってちょっと遠出することにしたのだ。

鼻歌混じりに外の景色を眺めていると急に視界がひらけ、海が目に飛びこんできた。 波の音。 遠くからは船の汽笛が聞こえてくる。 港町に到着だ。 この街の駅はかなり大きい。 次々と人が降り、そして入れ替わりにまた別の人達が乗って来る。
子供たちは汽車に乗れるのが余程嬉しいのかはしゃいでいる。私も子供の頃は汽車に乗るのが無性に嬉しかった。 もっとも今でも嬉しいのだが、さすがに子供のようにはしゃぐことはできないな。 と、すこし羨ましく思った。 親が「静・か・に」とたしなめる。 まあいいじゃないか。

そうこうするうち汽車は出発し、すぐトンネルに入った。そうして再び山の緑の中に入っていく。緑と言ってもこちらの方が海に近いせいか少し葉の色が濃く艶々している。 木々もやや大柄な種類が多いようだ。 車窓を流れる緑を眺めながらまたウトウトする。 少し寝よう。
ずいぶん長い時間寝てしまったように感じたが実際にはどの程度だったろうか、気がつくと汽車は少しづつブレーキをかけた。 汽車は警笛を三度鳴らし目的地への到着を告げた。


第二楽章: 「夜行列車」


夜行列車といっても出発するのは夕方で、まだ寝るには早い。外では何か動物の啼く声がする。トランプやなんかに興じる人もいる。 車内で夕食をとれるサービスなどもあり賑やかな雰囲気だ。ある者などは狭い車内ながら地方の踊りを踊ったりしている。

やがて夜もふけ皆寝静まったようだ。 だが私はなかなか寝付けない。 ふと祖母のことを思い出す。
よく川に遊びに連れて行ってもらった。数え歌を教えてもらった。 遊び疲れたときは家までおんぶしてくれた。 友達と喧嘩して泣いて帰ってきたときは何も言わずただニッコリと微笑んでいた。
今となっては遠い思い出が走馬灯のように駆け巡る。

さて、そろそろ私も寝ることにしよう。列車が到着する頃には夜が明ける。


第三楽章:「かけぬける」


さっそうと平野を駆け抜ける蒸気機関車。斜面をどこまでも登っていく機関車。
木の枝スレスレに風を切り加速していく様子。 力強く警笛を鳴らす様子。
長い坂を全速力で登っていったかと思うとぱっと平らな草原が広がる。
あたかもこの世界には自分と機関車しかいないかのような一体感。

機関車よ、おまえはどこまで走るのだ。

おまえはただ走るだけなのに私にいろいろなものを見せてくれる。
汽車から見る川は細かくキラキラしていてとても綺麗だった。 遠くに見える山々は雄大だった。
私は、ただ機関車に乗っているだけなのに、だた機関車を見ているだけなのに。
黒い煙と白い蒸気を吹き上げながら出発する姿はワクワクさせてくれる。
今まで体験したことのないような加速と今まで聞いたことのないような汽笛でドキドキさせてくれる。
心地良い揺れで優しく抱いてくれ私を夢の世界に連れて行ってくれる。

機関車よ、おまえはどこまで走るのだ。


第四楽章:「人生のこと」(機関車とある機関士の会話)


夜露に濡れる機関車よ、お前もだいぶくたびれたんじゃないか。 これまでよく走ったな。
私もそろそろ退職だ。 お互い苦しい時もあったがよくやったと思うよ。

でも、もう少しだけ走ってみたいとは思わないか。 この先どうなってしまうのだろうな。
このまま終わってしまうのかな。 もう少し頑張れるのかな。

夜露に濡れる機関車よ、お前は何も言わないな。 もっとも俺がおしゃべりすぎるのか。
何かが鳴いているな。 まあ今日はゆっくり休んでそれから考えることにするか。


第五楽章:「もし機関車を運転できるなら」


もし機関車を運転できるなら、ロシアの平原をどこまでも全速力で走ってみたい。
もし機関車を運転できるなら、砂漠を越え遠くアジアまで行ってみたい。
もし機関車を運転できるなら、煙をもうもうと吐きながら坂道を登ってみたい。
もし機関車を運転できるなら、山の向こうまで響くような汽笛を鳴らしてみたい。

もし機関車を運転できるなら、綺麗な川が見える鉄橋を走ってみたい。
もし機関車を運転できるなら、今は走っていないあの旧型の機関車をもう一度走らせてみたい。
もし機関車を運転できるなら、火花を散らしながらおもいっきり急ブレーキをかけてみたい。
もし機関車を運転できるなら、みんなを乗せて世界を旅してまわりたい。

だが、私にはそれができない。 だから私はその想いを曲にしたのだ。


ーー 完 ーー




Serenade for Strings Opus 22

Serenade for Strings Opus 22

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Naxos
  • 発売日: 1992/10/27
  • メディア: CD



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